にこらのブログ(カメラ修理館)

クラシックカメラを修理、収集している学生のブログです。

ニコン ニコマートFTの分解清掃

またTwitterで長らく関わりのある方からの修理依頼です。

 

ニコン ニコマートFTの依頼となります。

ニコマートシリーズは不作だったニコレックスシリーズに代わり1965年に登場、以来1977年までFT FTn FT2 EL...とロングセラーシリーズとなりました。

 

特に1967年、ニコマートFTのマイナーチェンジモデルとして登場したFTnはヒット作となり市場でも数多く見かけます。なにせ104万台も売れたらしく一眼レフではペンタックスSPに継ぐヒットモデルでした。

それに引き換え、前代であるFTは僅か二年でバトンタッチしたためか12万台余りにとどまり市場でもFTnの印象強さに押されあまり見かけた覚えがありません。

 

稀にFTnかと思いきやFT2だったりFTだったり...という記憶がある程度で影の薄い機種となります。

 

私物のニコマートFTnと依頼品であるFT

次作のニコマートFTnで何が改良されたかといえば、平均測光が中央重点測光に改められたこと、ファインダー内にシャッタースピード表示が付いたこと、開放F値設定が半自動になったことが挙げられ根本的な仕様はほぼ変更されていません。

 

ただ、アサヒカメラ1968年1月号ニューフェイス診断室ではこのニコマートFTnが取り上げられていますが、仕様にほぼ変更はなくともその前後ブロックにおけるダイカストの型は全く別のものが使用されているらしい。

ちなみにニコマートFTのニューフェイス診断室は1965年11月号にて紹介されているらしいですが未入手。

 

ニコマートFTには製造初期の外部測光CDS穴がダイカストに残った初期型と、FTnと同等のものになった後期型とがありますが、各部仕様をみても製造日時(1967年2月)をみてもニコマートFTnにバトンタッチする直前の後期型の個体と思われます。

 

ちなみに後期型の特徴としてはフィルムカウンター周辺にニコマートFTn同等の銀枠が付いたことも挙げられます。

 

 

ニコマートFTの特徴といえば、設計として徹底的なユニット化を取っていることでしょうか。国産量産機ではキヤノネットが徹底的なユニット化に先鞭を付けたことで有名ですが、一眼レフではここまできちんとしたユニット化をしたものはそれまでなかったように思います。

 

機構だけを見るならば安普請なカメラに見られがちですがそこで浮いたコストを部材の向上に充てているようで一般的な普及機では真鍮メッキネジを使用するようなところであっても、アホほどでかい鉄ネジを使用、真鍮マウントではなくステンレスマウントを使用するなど結果として狂ったほど硬いカメラになってしまいました。

変な話、部材としては似ているものの何かと一回り大きく前板はダイカストの一体成型という硬さでニコンFより硬いんじゃないかしら。

 

コパルスクエアS

前代?ニコレックスFで使用されたコパルスケアーに代わり、Sが使用されています。

縦走り金属シャッターという仕様は変わっていませんが、根本的な作動方針はまるで違ったものとなっており、従来型では横走り布幕シャッターを縦走り金属にしたような作動方向が垂直であったものの、S型では平行に変更されています。

 

その弊害として、巻き上げにラックギアが必要なこと、またシャッタースピード変更がフォーカル面に平行になった(そのためマウント基部にダイヤルがある)ことがありますが圧倒的に作動は安定し静かに、そして背丈も小さくなりました。

次代のCCS(FM等)ではセイコーMFシャッターに触発され、ブレードを小型化、羽根枚数増加でより高さの低い設計となりましたね。加えてラックギアも不要になりました。

ニコマートシリーズがこれほどロングセラーになった遠因としてシャッターの根本的な改良が長らくなかったためとも言えるかもしれません。

動作方向がフォーカル面に平行になったほかは一般的な一軸不回転横走布幕機と作動方針は相違なく、1/1000-1/125は偏心板、1/60-1/15はガバナー開放、1/8-1/1はガバナー作動の変速となっています。

 

スローガバナー 分解洗浄しました。

コパル製だからか、コパルSVを見てる気分...()

 

シャッターは42年2月製造でした。ニコマートFTnの発売が10月ですのでFTとしては最後期型に当たるのでしょうか。

 

なぜか知りませんが、この時代のニコン機は塗装面にこのようなカビが生えていることが多々あります。

溶剤で拭けば取れますが、塗装面だけあって気を使いますね。

 

ファインダースクリーン部分のモルトも崩れるのは良いものの隣に露出計を通すためのスペースがあるためモルトくずが混入しやすい欠点があります。

ニコマートがちゃんと整備されているかどうかは、ミラー受け側のモルトではなく、このスクリーン周辺のモルトで判断したほうが良いかと思います。

なぜかといえば、このようにちゃんとボディからミラーボックスを降ろさなければ露出計が干渉しファインダーユニットまるごとが外れないのです。

さすがにミラーボックスまで下ろしてファインダーだけ清掃し終わるなんてよほどのものぐさしかしないでしょうし。

 

 

アルミ蒸着のため青白いものの時代なりに見やすくなったファインダーです。

この時代になるとフレネルレンズも細かくなり(1mmあたり25本)、またマイクロプリズム(J)も8度というまぁまぁ使いやすいものになりましたね。

ちなみに前期型のニコマートFTはフレネルレンズが荒く1mmあたり12.5本の若干粗の目立つものでした。

超音波洗浄しましたが、中央のマイクロプリズムのチリはなかなか取れませんね...

 

ニコマートFTnになるとこの受光窓に絞り板が加わった中央重点測光になります。

 

ニコマートで好きなのが露出計用配線を通すための隙間だったりします。

量産も相当考えたんだなあという謎の良心を感じてしまうのです。

露出計はNSK(日本精工)製なんですね。ちょうどフランジバックを計測するために使っている計器がNSK製で妙な親近感。ちなみにペンタックスシチズンキヤノンは自社、マミヤはセコニックだったりしますね。他は刻印ないのでわからない。

 

このあと組み上げてからNSK()でフランジバックを計測しましたが+0.01mmという精度でした。やっぱそこらへんもニコンなんだよなあ...

コパルスクエアも基本的には無調整でちゃんと精度が出るため、布幕機とは調整がいらず組み上げたときの快感が違いますね。

 

外装(貼り革、メッキ部分)も清掃しましたがスレ・キズがほぼなく今箱から出しました、みたいな綺麗さです。

とかくニコマートとなると実用機ということも相まって数こそ多けれど役目を果たしたものが多く綺麗な個体はあまし見かけませんからいいなあと。

 

先日、国産普及一眼レフの修理をしていましたが、その機種がほぼ無メッキ真鍮ネジで構成されておりいつ潰すかハラハラしていたのに対し、ニコマートではほぼ鉄ネジ、非常に気持ちよく分解できました。

露出計の近辺はしっかり真鍮ネジを使っているところも好感がもてますね、国産某社は露出計近辺に鉄ネジを使っておりしっかり磁化、取り付けるのが大変でした。

 

それにしてもコストダウンしようと思えばいくらでもできる、しかしその分のコストを耐久性向上に掛けたこんだけ堅いカメラが世間でちゃんと評価されきちんと販売実績を伸ばせる良い時代だったんだなあと思いますね。

まぁ、一般人にその硬さが要るかといえば...?

 

では。