ある方を通して依頼して頂いたペンタックスMXの修理です。
ありがとうございます。
本当に小型な一眼レフです。
一時期旭光学工業時代のペンタックスにハマった頃がありまして、Kマウント機は主力ではなくM42マウントの(旭光学風に言えばSマウント)機種が主力でしたが、小型軽量なのに惹かれMXも所有していました。
SPやSL(他系列機種)は結構な量やりましたが、MXは久しぶりです。
作業内容の報告と機構の説明を兼ねて書いていこうと思います。
まず生い立ち
ペンタックスMXの誕生以前、前年1976年にペンタックスはマウント変更をし従来のM42マウントを捨てKマウント新鋭機種としてK2、KX、KMを発売しますが従来のSP系統のボディシャシーを引き継ぎESII、SP Fの二番煎じとも言えるもので新鮮味が薄く市場からはあまり歓迎されなかったそうです。
旭光学側からすればM42マウントはESでの開放測光改造でなんとか持ちこたえてはいたものの旧態依然としたスクリューマウントは早急解決すべき必須課題であったのですが、SPがあまりにも売れ、またユーザー層にアマチュアが多かったこともあるんでしょうね。
また時期があまりにも悪すぎたのもありますね。
1976年といえば1973年10月のオイルショックがいまだ冷めやらぬ時期でカメラ市場では買い控えがかなり深刻な問題だったようです。
キヤノンが無配転落したのも(昭和49年の無配転落)このころでそれを契機に効率化を断行、この年の大ヒット作キヤノンAE-1に繋がりました。
さて、このころの一眼レフカメラの商品開発では10年ほど続いた各社判を押したような性能のTTLマニュアル一眼レフを脱却し、自動露出と小型化が流行したころでもありました。
このころ、旧態依然とした一眼レフを作り続けていたペトリカメラやミランダカメラが相次いで倒産していることを鑑みると相当過酷な時代だったんでしょう。モデルチェンジ=正義とされ始めた時代とも取ることができますね。
今回のペンタックスMXもこういった経緯を踏まえ新生Kマウントの利点を活かしつつ、小型化に重点をおいて企画された一眼レフとなります。
設計としては後で追って説明しますがペンタックスSPの設計を色濃く残しつつ、軽量小型で一世を風靡した1973年発売のオリンパスOM-1、それ以前の最軽量一眼レフフジカST701(1971)等の思想も取り入れている印象です。
では修理に入ります。従来機のペンタックスSP系(SP~SP F/ ES)との比較に重点を起きながら解説?していこうと思います。
LEDによる露出計になったためか電気系統が複雑ですね。
分解清掃のためとりあえずミラーボックスを下ろします。
モルトカスで汚れているので清掃します。
この時代の国産機はホコリが入らなくともモルトカスで作動不良を起こすことが多くありますね。
布幕フォーカルプレンのまま高さを減らすため、リボンの代わりに紐が用いられています。これはオリンパスOMのアイデアですね。
この時代になるとグリスの使用を抑えるためプラスチックで軸受を作り、金属同士の摺動部でもグリスを使わないことが増えてきましたね。最低限の箇所しか使用されていない印象があります。
従来のペンタックスはキヤノンやニコンのようにフォーカルプレンシャッターの軸受にボールベアリングを採用していませんでしたからオイルが古くなると寒冷地で動作不良を起こすことがままにあったようです。説明書にも寒冷地に行く前には分解清掃をサービスに頼むよう記載がありましたね。
SP Fになるとシャッターには軸受にプラスチックが用いられいくらか改善されたようですが、ミラーボックスには未だグリスが多く用いられていました。
今ではミラーボックス駆動部分には金属ではなく、自己潤滑性をもつエンジニアリングプラスチックが採用され寒冷地での耐寒性など問題になることはなくなりました。
電池の耐寒性のほうがよほど問題かな...?
イッテQでなんの特殊改造もされていなさそうなカメラが普通にエベレストで使われているシーンを見たとき時代を感じましたよね。
右下の黄金色の筒がエアダンパーです。
一眼レフで使用者が感じるミラーショックの多くはミラー降下時に発生するものだったりしますが、上昇時ももちろんショックが発生するためそれを吸収するためにあります。
ミラー駆動スプリングがチャージされエアダンパーが開いた状態
盛んに一眼レフにダンパーが採用される様になったきっかけはやはりオリンパスOMなんでしょうね。
1/30~1/1秒を制御するスローガバナーです。
従来のペンタックスではミラーボックスの直下にありましたがスペースの関係で底部に移設されてきたようです。
オリンパスOMではスローガバナーはミラーボックス直下でしたから、どちらかというとフジカST701の発想に近いものがあると思います。
分解洗浄し油交換
従来のペンタックスSP~SP Fまでのスローガバナー(参考
かなり複雑になった印象がありますね。
このスローガバナーの特色といえば、作動を軽くするためかミラー降下時のスプリングを利用しアンクルを開放しているところでしょうね。
後幕のスプリングは従来、スローの作動と最後の余力でスローガバナーのアンクル開放、そしてミラーチャージ開放の作動を担っていましたが、ペンタックスの場合後幕にはシャッターブレーキもあり油が古くなると最後まで走りきらずミラーアップしたまま停止することも多くありました。
そういった事故を減らすための設計変更なんでしょう。
可変抵抗も表を接点グリスで軽く潤滑
接触が悪いと針飛び?(LEDならなんと言えば?)してしまいますから。
ペンタプリズムの底面が湾曲しています。
一般的な一眼レフ(ペンタックスSP含め)ではフォーカシングスクリーンの上にコンデンサーレンズがあり、空気間隔を挟んで底面が平面のペンタプリズムがあるスタイルがほとんどでしたが、空気間隔を挟むため小型化には不便な面もありました。
そこでペンタプリズムの底面を湾曲に加工しコンデンサーレンズの効果をもたせたのです。古くはライカフレックスSLなどでも採用例がありましたが、やはり小型化の先駆者であるオリンパスOMに採用されておりそこから思想を取り入れたようです。
従来機のペンタックスSPは品質設計ともに一眼レフの完成形と言っても過言ではないほど完成度の高い一眼レフでしたが一方で耐寒性の問題等もありました。
ペンタックスMXではSPの簡潔な設計を引き継ぎつつ欠点を改良し小型軽量化の要求される時代に他社の設計思想を取り入れ完成させた一眼レフでしょうね。
作業内容
・シャッター精度不良のため分解清掃、シャッター幕速調整
・露出計精度不良のため露出計調整