にこらのブログ(カメラ修理館)

クラシックカメラを修理、収集している学生のブログです。

ペンタックスESの分解清掃

Twitterでけっこう長くお付き合い頂いてる方からの修理依頼です。

ペンタックスESは後述の通り触ったこともありませんでしたが、SPと同様のシャッター機構を持っているため修理自体は可能だろうと考え引き受けました。SPと同様の故障であってもESというだけで条件付きでも撥ねられる修理屋が多いという見聞は聞いておりましたので...

 

ペンタックスSP(ちなみに後期が好き)の修理なら30台ほどしてきましたがESは過去に一度ESIIをペンタプリズムの拝借に分解したのみで触ったことすらもありませんでした。

1971年発売、電気制御としては初期のモデル、曰く世界初の電気制御の絞り優先EEな一眼レフだそう。電気制御という括りでみればヤシカエレクトロTLなんかもそうですからね。

 

この頃、出始めの電気制御AE一眼レフは非常に高価でニコマートELやミノルタXE、そしてキヤノンEFなどの中級機は軒並みボディ6万円超え、F1.4付で8万円超えなんていう高価格でした。

ニコンではニコンFの次世代機としてF2が登場したものの根強い需要からFは依然として生産(~’74)されていましたが、F2よりFが高価になるわけもなく、遂にはアイレベルではニコマートELに価格が追い抜かれるという逆転現象が起きたりしましたね。

 

同じことは、時を同じくして起こったクォーツ腕時計にも発生しており、セイコーでは

当時のセイコーを例に挙げますと、クォーツで一番廉価だった38QRでさえも56グランドセイコーよりも高価(38QRC…45000円 56GAC...44000円)なんて逆転現象が起こったり。

 

底上げされたボディの底部には電子基板が入っています。

カタログではこれみよがしに写されていた電子基板ですが時代を感じてしまいますね。

 

 

配線はこのようにまとめられています。

時代が時代ですからコネクターになっていない、とおもいきやソケットにはなっているようです。組み立ての際に大変なので外さず行くことに。

 

電子基板で底上げされたボディは専用のボディシェルを持っているわけでもなく、スペーサーにて底上げされています。まんまSPですね。

 

スローガバナーを固定していたネジ穴は向こう側から締められていますね。

 

軍艦部

底部から巻き上げクランク側の肩へ配線が延ばされ、そしてペンタプリズムを経由してシャッタースピードダイヤルの方まで続いています。おそらくファインダー内露出表示調整用の半固定抵抗ですね。スペース上の問題であっちこっち行っているよう。

 

前板を外した図

セルフタイマーがあった箇所は電池室用スペースと電磁石が配置されていますね。

 

上に行くのみの配線はチューブに囲われています。そりゃそう。

どことなくペンタックスSPFみを感じますね。同世代機ですし当然か。

 

ミラーボックスを外しシャッター機構の脱脂給脂をします。

徐々に掠れたシャッター音からしっかりとした作動音に変わっていくところがカメラが復活するようで好きなんですよね。これが好きでやめられないんです。

スローガバナーがあったほうが体感的には...(ry

 

SPではスローガバナー(アンクル開放)の連絡用に使われていたシャフトはオートマチック切り替えスイッチへの連絡棒になっていました。如何にもSPの部品...

 

SPではスローガバナーが配置された底部にはミラーボックスへの内部電極が配置されていました。意外にも整備性が高いですね。ミラーボックス外すまでに15本ほど電線を外しますけどね...

 

金メッキではなく真鍮のクロームメッキのためか電極が腐食していました。

軽く研磨(比較用に右半分)すると綺麗になりましたね。

ES君に異様に動作不安定個体が多いのは電子部品の故障ではなく案外こういう電子接点が問題だったりするのかもしれません。

電気カメラの故障は治らないと巷で耳にしますが、多くは機械部分の故障、調整ズレ、接点不具合のような気がしてきています。1970年代製のコンデンサーをテスターにて容量を計測してみても意外にも実用可能な容量を保っている上、IC故障も過電圧が発生しにくいカメラでは起こることは考えにくく......

ただ、電子カメラは機種ごとに調整方法が独特な場合も多く、ある特定の電子カメラの修理技能を持っていたとしても修理屋としては食って行けず、機械式フィルムカメラのように古今東西オールマイティーに行うのは不可能なんでしょうね。

 

 

モルトの交換を行っていきます。

 

そういえばミラーボックスの写真を撮るのを忘れましたが、SPFとほぼほぼ変わらないものが採用されていました...というよりSPF、SPIIがESの流用なのでしょうね。

ただ、プラスチックの自己潤滑性を用いた摺動部品のカバーは用いられておらず、SPとSPFの中間と言った印象でした。時代的にもそんなもんですが。

 

絞り値連動の動きが鈍かったため清掃、グリスアップ

ペンタックスSマウント(M42)のまま開放測光にするため、レンズ取り付け位置の連動ピンにて可変抵抗基板まるごとを動かし、そしてレンズ側絞り値の連動を行うという凝った方式が使われています。

これ、定点を変動させるという面ではトプコン特許を避けられたんじゃないかなーといつも思いますがどうなんでしょう。特許料払ったのかしら。

 

それにしても、この時点でペンタックスレンズマウントを変更しておけば...といつもSPFやESIIを見るたび考えてしまうのです。ちょうど旭光学はカール・ツァイスと共同開発を進める...という手前安易にレンズマウントを変えられなかったのかもしれませんがね。

 

それを思うと、膨大なユーザー数を獲得するペンタックスSP以前にバヨネットマウントにしておけば...と思いますね。時代背景を思うに無理な話なのかなあ。

 

なぜかペンタックスはファインダーまわりだけモルトが褐色に劣化するんですよね。

多少でも残っているとスクリーン内部に入り込みゴミの原因となりますので全分解清掃しました。

 

褐色のモルトが悪さしペンタプリズム蒸着を腐食していましたので交換。

今回のようにサビまみれのペンタックスSL君がいつもいれば心が痛まないんですけどね...

部品取りのペンタックスSL君

 

綺麗に一本筋が入っています。

 

プラス・マイナスの露出計表示板の代わりにシャッタースピード表示が入っています。

触れないよう注意しつつモルトの清掃。

 

貼り革の接着剤も剥がします。

ペンタックスの接着剤は剥がしやすくて助かります。その点キヤノンは剥がしにくいどころか爪の肉が剥がれるくらい力掛けても剥がれないほど強固なんですよね。当時の修理はどうしてたんだろう...といつも思います。

 

綺麗になりました。

 

シャッターの幕速調整を行った後、各部清掃して軍艦部カバーを取り付け完了。綺麗になりましたね。SPの魔改造といった印象が強いカメラでした。

 

ペンタックスESにはシルバーモデルの設定はないようでブラックモデルにみの様子。

キヤノンF-1にしてもミノルタX-1にしてもブラック=高級/プロというイメージのためブラックモデルのみの設定だったそうで、クロームメッキ大好きマンにこらとしては残念に思います?ブラックモデルもカッコいいんですけどやはりあの精密感も好きで...

 

閑話休題、このペンタックスESのオーバーホールのあとにニコンD100の清掃をしましたが、底部に電子基板を配置するという構成はペンタックスESと似ていますね。

 

過渡期に行き場のない電子基板が底面に配置されがちな現象...なんでしょうね。

 

では。