にこらのブログ(カメラ修理館)

クラシックカメラを修理、収集している学生のブログです。

寸足らずライカ判 ニコンSの修理から撮影まで

 

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ニコンSです。

 

数ヶ月前のこと、一時はいないかと思われたニコンI型所有者の方がツイッターに現れ、嬉しいことにFFになったんですね。

ニコンI型といえば日本光学最初の市販35mmカメラで35mm小型カメラ主流の現代のニコンからすれば全ての始祖とも言える機種なのですが、歴史的名機である上にニコン判によるクレームいろいろで758台しか生産されていないため相場価格は非常に高く中級自動車一台分ほどします。

 

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これほど1から100まで頭で噛み砕ける本は珍しいもので愛読書と化している「明るい暗箱」(荒川 龍彦著 朝日ソノラマ)ですが、改めて読み直してみるとふつふつと物欲が...

 

I型が純粋なニコン判(32mm*24mm)で一コマあたり7個パーフォレーションを送っていく仕様だったためカラーフィルムの自動裁断機が使用できずクレームが入り、画面サイズをできるだけ拡大し寸足らずライカ判(34mm*24mm)、ライカと同じく8個パーフォレーションを送るM型を発売します。

 

その後M型をフラッシュシンクロ付きに改良したのがS型。

 

つまるところ、市場に溢れ中古価格も安いS型でもI型の息吹を感じれるんじゃないかと思いついてしまったのです。うーんこの。

 

運命なのか知りませんが、ちょうど他のカメラを売却して資金があった上、まだ所有していないNikkor-S.C 5cm F1.4付きで比較的廉価に転がってたらそりゃ逝っちゃうでしょう。それが冒頭のニコンS型です。

 

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入手したニコンS型です。

S2の時代(昭和30年代)になると、各社シャッター幕の品質が上がり劣化しているものも少ないですが、まだSの時代はシャッター幕の品質がよくなく案の定このS型もシャッター幕が硬化し破損しています。

 

...これを修理したのがちょうど私の尊敬する方がS型を修理した日と偶然重なり、正直恥ずかしくて表に出せなかったのです。ということが前にもありニッカIII-Sも本当にまぐれで同じ日に直してたんですよね。

 

ここんとこ忙しかったので複数日に分けて直しました。

 

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ヘリコイドユニット?を外したところ。

ヘリコイドユニット単体で距離調整がされているようでワッシャーも入っていませんね。

 

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トップカバーを外したところ。

初めて知ったんですが、S型、トップカバーに巻き上げノブを取り付けているためにトップカバーを外すと巻き上げノブが取り付けられません。は???

 

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アパーチャーを外したところ。

...そうなんです。アパーチャーを外し裏からシャッター幕を挿入する方式になっています。これ自体はミノルタ35などでも見られる方式ですから独自とも言えませんが。

 

おそらくフォーカシングダイヤルが表にあるため裏から幕を挿入するほかなかったのかと思いますが、後継のニコンS2なんかでは表から取れますからね...謎い。

 

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ここも不可解。距離計ユニットを外さないと遮光板が外せないという。

 

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あわれもない姿に。

 

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シャッターの作動エネルギー源であるスプリングドラム。

なぜだか知りませんが、後幕のドラムだけひどく錆びついていました。

 

本体のメッキ部分にはサビが浮いてなかったためひどく不思議だったのですが、色々サイトを巡ってみるとニコンSのは錆びやすいみたいですね。

 

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研磨剤で軽くサビを落とし洗浄しました。

軸も錆びが残ってますが回転摺動部には接していないためヨシとしましょうか。

 

グリスを塗っておわり

 

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スローガバナー

なんと驚いたこと1946年に設計された国産カメラにしては珍しく、ワンウェイクラッチ式ではなくアンクル切り離し式が採用されています。

 

イカで初めてアンクル切り離し式が採用されたのがダイカスト型で1940年に発売されたIIIc型だと記憶していますが、板金ライカのコピーが多かった国産カメラでは採用が遅く軒並み1955年頃に採用し始めました(キヤノン、ニッカ、レオタックス)

 

この方式はアンクルを切り離した状態にすることにより2段階に変速できることに意義があるタイプとなりますが、ニコンS型にはそのような機構はなく機能的にはワンウェイクラッチ式でも十分なんですよね。

 

余談ですが、SPになると3段切替式の特許方式ガバナーが付いたりしましたね。

あの3段切替式ガバナーによりニコンF2でX接点1/80に対する1/60の精度が出せたと思うと、早い段階でアンクル切り離し式に着目したのは成功の鍵だったのかしらと妄想。

 

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ヘリコイドユニット。

普通のヘリコイドだったら重いグリスを塗るところですが、フォーカシングダイヤルで作動させるコンタックス式はどうしたら良いんでしょうね。軽くオイルを塗って組み立てましたが...

 

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70年間お疲れ様でした。

 

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ニコン判から無理やり画面サイズを拡大した苦労が見えるシャッター幕の竿。

作動距離を伸ばそうと苦心したんでしょうね。

 

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シャッター幕を制作しました。

 

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きれいになったボディ。

 

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普通はアパーチャーがあるため後幕かかり止め位置のケガキができるんですが、このタイプはできないので難儀しました...

 

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貼りました。

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遮光板もつけていないため間抜け感半端ないですね。

ちなみにこの状態で作動させると中央部だけ1/60に切り取られた世界が発生します。当たり前か()しかし違和感...

 

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距離計レバー状にくり抜かれた上部、ここからドライバーを挿入して遮光板を取り付けるようで。非常に変わってますね...

 

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I型の後期からスプール固定式になりましたが、固定されたスプールを外すとマガジン式構想の名残が。思わず声を出してしまいました。

 

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キヤノンIVSb型とニコンS型

正直なところ、同時期の製品ですがキヤノンの品質には一歩及びませんでしたね。

各部の部品の材料選択と設計がこなれていない印象を受けました。

 

そりゃ処女作に近いものですから仕方ないといえば仕方ないのですが...

言うならキヤノンIIb(1949)頃のレベルかなと。

 

キヤノンSIIからIVSbまでの品質向上はたった6年といえど凄まじい物がありました。

ニコンも次のS2になるとキヤノンに並ぶどころか追い越すと思うんですけどね~。

 

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寸足らずライカ

これも違和感はんぱない。

 

フィルムはAPX 100、レンズはNikkor-S.C 5cm f/1.4を使用しました。

ミクロファインで現像12:30。データがなかったんですがこんなもんでしょと(雑

 

I型気分ならNikkor-H.C 5cm f/2.0がいいと思ったん...ですが、H.C 5cm f/2.0は散々写してきたレンズですので今更感もありf/1.4を使うことにしたんですね。 

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試写した当日は曇りだったため露出が稼げなくf/5.6で撮影した覚え。

まぁ、5.6まで絞れればいいか。

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1/100 f/8 

 

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たしか1/500 f/2.8

二段絞ってもボケのぐるんぐるんは残ってますね。

すんごい癖玉。Nikkor-H.C 5cm f/2.0じゃこれほどぐるんぐるんはしません。

 

しかしピント合ったところのシャープさは凄まじい。

 

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たしか1/200 f/8

すばらすばら

 

試写中にブリチラしそうなほど短い短パン(白)でフリスビーしている少年を見かけましたが、白の短い短パンを見ると80年代を感じてしまうんですよね。

 

しかし足細かったなあ...(どこ見とんじゃい!

 

開放で撮るの忘れました。てへぺろ。では。