にこらのブログ(カメラ修理館)

クラシックカメラを修理、収集している学生のブログです。

ニコレックス35II分解修理の話

今月の初め9月6日のこと、松屋銀座で開催された第47回世界の中古カメラ市の帰りがけ、Twitter、ブログともに親交のあるわかばだい君、けいふさんらとともにレモン社銀座教会店に寄ったところ、ニコレックス35IIが比較的廉価で置いてありわかばだい君が買っていったのでした。

 

思えばニコレックスは初代を二台ほど購入し蘇生を試みたもののどちらも根本的に弱いカメラということもあり蘇生できず放置、以来疎遠となっていました。

ちょうどともにレモン社に立ち寄ったけいふさんがニコレックス35IIを余らせているとのことで私のカメラと物々交換という形で譲っていただきました。

 

ニコレックス35もII型になれば幾分 まし になるんじゃないかという期待を込めて分解修理。

ニコレックス35初代と並べてみました。

根本的な設計思想、大柄(無論野暮ったい)堅牢そうなボディスタイルは変わらず各部改良が行われています。

大きくいえばシャッターユニットの変更、スタイルの変更、スプール・裏蓋開閉機構の改良等が行われています。

ボディは八角形の伝統的なものから、角を落とした四角へと変更。

この変更はすでにニコレックス初代用に使われていたダイカスト型を削り込み型修正という形で行ったというから驚きますね。

結果としてニコレックス35初代の22520台から二倍とまでは及ばないものの、42955台が生産されたと言います。しかし売れ行きは良くなく一時は12000台もの在庫を抱える有様だったらしい。(*1)

 

軍艦部カバーを外して思うのは設計が極めてニコマートに似ているということ。

軍艦部カバーにシンクロ接点を直にはんだ付けするあたりや、露出計窓周囲にモルトを配置するあたり、後述する巻き止め機構に関してもニコマートに酷似しており設計思想としてかなり近いものがあるんじゃないかなあ。

 

レンズボード裏側。

初代の直にレンズシャッターからのチャージギアが出ている機構からレバー、カムを介してチャージする機構に改められました。

プロンターを参考にしたシチズンMXVからシンクロコンパーを参考にしたセイコーシャSLVに変更されたという点が大きいんでしょうね。

 

最深部のセイコーシャSLV、黎明期から最末期までレンズシャッター一眼レフ用シャッターを供給しておりトプコンコーワ等でも多用されていました。

ここまでの分解過程を書いていませんが、かなりまとまりのない設計をしておりかなり苛つきながら分解しました。ミノルタハイマチック7なども入り組んだ設計をしていますが、もうちょいまとまりがあったはず。

絞り値、シャッタースピードの可変抵抗を介した露出計連動のための機構は直にブラシを取り付けるよりユニット化したほうが良いと思うし前の取って付けたような飾りリングは要らんと思う。

あと、シャッターをレンズボードに接続する中間のリングにシンクロの中継接点がありますがブラシへのケーブルははんだ付けだったりとちぐはぐです。

 

省略できそうな部品が多く、これ結構製造コストかさんだんじゃないかなあ。

セルフタイマーとスローガバナー

ふつーのセイコーシャSLVです。実はセイコーシャSLVはあまりすきでない。

セイコーシャラピッドは好みなんですが。。。ね。

 

セイコーシャSLVがレンズシャッター一眼レフに多く用いられた理由である羽の開閉機構。まだクイックリターンには対応しておらずチャージ時のみ開閉できる仕様です。

 

ちなみに大判カメラに使用するセイコーシャSLV0番ですが、こちらもチャージ時のみ開閉できる仕様です。

 

ヘリコイド部分

モリブデングリスが用いられていたのか粉、ゴミが多くひどい状態。

ニコンのグリスは劣化ではスッカスカに抜けるだけですので固着することはなく、別のグリスが用いられているようです。

 

洗浄後

 

このカメラの最大特徴と言っても過言ではないポロミラーシステムです。

フォーカシングスクリーンの上にコンデンサーレンズが配置されるのは一般的な一眼レフと同様、3枚のミラーにてペンタプリズムの代用をしています。

劣化しても表面鏡で代用できるのが良いね!!!()

 

ベース部はダイカストにて作られており、スプリングにてミラーを押さえつける仕様です。無論接着剤でも固定されていますが。

 

フォーカシングスクリーンはスプリット式、プリズム角度は6度。

50mm f/2.5レンズ、コンバーションにて35mm F4 90mm F4に変更可能であるがポロミラー式のためファインダー倍率は0.6倍と低く若干不安があるような。

あんなにちっさいファインダーの割に出てくるのは一般的な一眼レフと変わらないフォーカシングスクリーンというのが当たり前っちゃ当たり前なんですけど違和感がありますね。

 

この上は元からビニールテープにて防塵と遮光がされており、それが如何にも雑に作られたカメラのように思え、ニコレックスが不当に低い評価をされる一因なんだろうなあ...それ以外にもポンコツな点はたくさんありますが。

 

レンズ、Nikkor-Q 5cm f/2.5が付いています。

ただのテッサータイプです。この時代になると2.5も可能になったんですねえ。

そういえば同じ昭和38年頃ニコンではf/2の変形テッサー型レンズの構想があったらしく、意外に諸収差の補正は良好で驚いた記憶があります。特許広報を見る限り第三レンズと第四レンズを分離し僅かな空気レンズを入れるという手法取っているために製造面でボツになったんだろうと推察。

 

同時期、盛んにレンズ枚数を減らす設計手法が研究されていたようであの時代の特許公報は見ごたえがありますね。

キヤノンのキヤノネットに採用されたCANON SE 45mm f/1.9では第六面の曲率を弱めコマ収差を改善、それによって発生する球面、非点収差を第二群にて解消するというセレナー50mm f/1.8と同様の手法を取っているようでまさにキヤノンらしいなあと思った次第。

 

レンズシャッターカメラだと00番シャッターという制約も重なってくるわけで、キヤノネットQL17に採用されたSE 45mm f1.7は6枚構成という一見無理のない設計であるもののダブルガウスタイプでいう3群目凹凸という順番を逆にし奇妙な構成ながら解決、しかしながらダブルガウスタイプの特徴である対称性が崩れ歪曲収差が大きくなってしまったよう。

性能で言えば1.9より1.7の方がよほど良さそうなものですが、若干無理していることも多くなんとも言えないんですよね。歪曲収差に関しては絞り込んでも解消しないわけで。(個人的にはキヤノネットQL19より17の方がデザインは好きなんだけどね。

 

この時代のテッサータイプレンズは第三群に使用されているフリントガラスが新型硝材が使用され始めた頃から曇りやすいらしく多くの大衆機で曇りが発生してしまっています。Nikkor-Q 5cm f/2.5にはそういったことはないようで良かったというかなんというか。

本来、ニコンF発売時、標準レンズとしてセットされる予定だったものの、新時代の一眼レフにF2.5は良くないとかそんな理由うろ覚えでボツになったレンズらしくそのレンズが楽しめるのもニコレックスならではだなあと。

Ai-P 45mm f/2.8なんていうパンケーキレンズもテッサータイプでしたねそういえば。

 

手元のアサヒカメラ1963年4月号に掲載されたニューフェイス診断室70回ニコレックスズーム35の診断記事を読んでいると、「お世辞にはスマートとはいえない(*2)」という文言はあるものの概ね高評価でなんとも不思議な気分。

所感では、体裁から構造までもうちょい検討しても良かったんじゃないかという気はしないでもないような。「これも初めての試みとして最終組み立てまで外注先に任せたことも、トラブルの原因としてあるようだ。(*2)」「このシャッターに問題が会った上に、技術力の未熟な下請け工場に作らせていたため、故障が続出してしまった。(*3)」などと外注先やシャッタートラブルを原因と断定するような記述が多いが根本的に企画として甘かったんじゃないかという気はしないでもないような。

 

ニコレックス8と同様、黎明期における2万円台の一般向け普及一眼レフというコンセプト自体は良いものの35に関しては甘かったんだろうなあ。

その点、同時期に同じく高級メーカーが中級機を発売し成功した例としてキヤノンは設計面のみならず製造面、販売面でも手抜かりはなく綿密な計画構想があったからこそキヤノネットの大ヒットに繋がったんだろうなあとは思う。キヤノン唯一の社史「キヤノン史 技術と製品の50年」第二章第二節にキヤノネットの解説があるがよっぽど考え方ともに進んでいると思ってしまう。

 

 

(*1)荒川龍彦(1976)「明るい暗箱」朝日ソノラマ社 pp.292-293

(*2)第1回「ニコレックス35」と「ニコレックス35II(35/2)」

https://www.nikon.co.jp/main/jpn/profile/about/history/itoko/itoko01j.htm

(*3)荒川龍彦(1976)「明るい暗箱」朝日ソノラマ社 pp.292