にこらのブログ(カメラ修理館)

クラシックカメラを修理、収集している学生のブログです。

キヤノンフレックスの修理と余談

いつも修理依頼をいただく方からの修理依頼です。

 

キヤノンフレックスRPのメンテナンス - にこらのブログ

キヤノンフレックスRMの修理と余談 - にこらのブログ

かつてキヤノンフレックスRPやキヤノンフレックスRMに関して記事にしたことはありましたが、今となっては考察として不十分で中途半端なものだった気がします。

キヤノンフレックスRPの記事が3年も前に書いたもので、かれこれ3年も同じ題材を扱っていると思うと先進的な話題を扱えていないだけ引け目を感じてしまいますね。

 

キヤノンフレックスは、ある意味では私にとって重大なターニングポイントにあたるカメラで、初めての都内カメラ屋めぐりも日本カメラ博物館もニコンミュージアムも()キヤノンフレックスを提げて行ったおぼえがあります。後々カメクラと出会うきっかけになる親友の出会いもその時でした。

好きなんですよね、キヤノンらしくない野暮ったさといい、評判の悪さのわりによく動くあたりが...。 

 

あのころの記事を読んでいるうち、思えば遠くに来たもんだ、という感慨深さを感じてしまうのです。カメラ修理に関しては...あまり進歩していないのは否めないものの、まさか3年後、都内カメラ屋の店先に立っているとは。

 

依頼品のキヤノンフレックス...ではなく、私物のキヤノンフレックスです。

 

 

重厚なアルミダイカストによるフレームです。

裏蓋も従来のプレス部品に代わり、アルミダイカストによる裏蓋を採用したため軽量かつ堅牢になっています。キヤノンV型の裏蓋がプレス部品だったという事実に驚いています。

 

ミランダTなど他社国産では真鍮プレス部品をつかうことが多かった裏蓋ですが、アルミダイカストのおかげか、言われてみれば堅牢な感じがします。

裏蓋もダイカスト仕上げだが、これは国産カメラとしては初めての試みで、薄くて軽い割にしっかりしていて、ブカつかないのが利点といえる。

「アサヒカメラ1959年8月号」(1959 朝日新聞社)

ニューフェイス診断室(25)キヤノンフレックス」からの引用

 

シャッター管制部分です。キヤノンでは初めての4軸フォーカルプレーンシャッターを採用しています。R2000になるとボールベアリングシャッターに進歩し幕速の向上を図り1/2000を実現しています。

 

通常、制御部分はシャッター連動歯車真上に置いたカムの真上に置くことが多いものの、どういうわけかカメラの端に置き、腕木により延長したうえで作動させています。

 

これは、先幕にシャッター作動開始後、後幕の連動歯車に一時的に制動を与え、そこに自由状態にある先幕連動歯車が一旦到達、協働し制動を解除させるという若干特殊な形式を取っているためです。この機構を採用すると連動歯車真上にシャッタースピード調節カムを配置すると不都合が生じるためでしょうか。

 

特公昭35-7220に出願人 根本 智氏名義で特許も出願されていました。

高速シャッターの安定性を高めるための機構のようですね。通常のカムのみの一軸不回転フォーカルプレーンシャッターでは後幕は一時的制動が加わるものの、先幕が制動を解除し、解除後は後幕のみのスプリングで作動させるため、シャッタースピードによって一様の状態ではなくなり安定性が保てませんでした。

その後、キヤノンフレックスR2000ではボールベアリングシャッターに進化し横走りフォーカルプレーンシャッターで1/2000という快挙を成し遂げました。

 

横走一軸不回転フォーカルプレーンシャッターで一番奇妙な機構をしているのは断然ゼンザブロニカですが、先幕後幕ともシャッター制御には関係せず自由に走行するゼンザブロニカとは全く反対の発想をしていますね。

 

話が逸れますが、レコードトーンアームのように腕木が先幕連動歯車上に動き、先幕連動歯車にそれぞれのシャッタースピードに対応した突起を配置、スリット幅を制御するなんていう奇妙なペトリ一眼レフもありますが、それに近い物があると思います。

 

巨大なスローガバナー、シャッター作動後にアンクルを開放する機構は搭載されておらず、ライカM型と同様にシャッター作動後にジーッという音とともにリセットされます。

 

もろもろを組み付けた状態です。

 

ミラーボックスです。ニコンF同様にレリーズ棒からミラーボックスへの連動に腕木が使われています。こちらの方がよほど精度は高く、調整は不要のようです。

 

キヤノンフレックスは高速時でもレリーズ時にシャラン!という独特な音がしますが、それはこのミラー緩衝ガバナーによるものです。

また ミラー作動時にはガバナーが作動して ショックを完全に防止する安定機構もキヤノン独特といえましょう

1961年カタログより

キヤノンフレックス登場時、寒冷地で使用するとミラーの作動が途中で停止する事故が多発したため評判が悪かったとありますが、この緩衝ガバナーの影響でしょうね。

 

底部はカム駆動ではなく、ギアが主体になっていました。

第2に構造上からも、巻き取り機構に沢山のギアを使い、巻き取リレバーに課せられた数々の任務を分担させているが力の配分とタイミングとが適当でないためか、巻き上げの手応えはかなリギゴチない

というニューフェイス診断室の批評のように、巻き上げ最後にシャッター幕連動歯車を切り離すためガクッというショックがあり、感触としてはあまりよくありません。

 

フィルム・カウンターは自動復元式で、シャッター・ボタンのうしろにあるが窓、が小さく、しかも文字盤が深い所にあるため光が入らず、せっかくルーペをはめ込んであってもはなはだ見にくい

 

ピント・グラス下面の中央には直径5ミリのスプリット・イメージ式距離計がついている。これは他機のものと違い、単に2個のプリズムを逆方向に置いたものではなくて、おのおののプリズムを1ミリに20本の割合で並んだきわめて小さな柱状プリズム群(エシュレット格子とよばれている)で置き換えたものである

 

このエシュレット格子ピントグラスは昭36-1079として特許も出願されており、キヤノンカメラ㈱が出願人となっているものの、発明者は坂柳 義己氏という東京教育大学の教授らしい。回析格子に関する研究をされていたようで、産学連携に近いなにかだったのかしら?

 

付属していたR 50mm F1.8のヘリコイドグリス交換です。

機構を部品単位に分解し一つ一つ洗浄していきます。

 

 

シャッタースピードの調整

さすがキヤノンのカメラだけあり、しっかりと安定した精度が出ます。

 

組み立て、調整を済ませて完成!

 

ズノーが能の精神を生かしたカメラとすれば、キヤノンフレックスはさしずめ歌舞伎の精神を盛り込んだものといえよう。黒ずくめでありながら、総体的にはなかなか派手である

一流メーカーの力作だけあって、器具、骨柄非凡の感じのするカメラであるが、細かい神経が行き渡っていない点は、何かの理由で発売を急いだためと見たのはヒガ目だろうか

という評価が最後ありましたが、部分部分での設計や加工は素晴らしいものの、全体的に統一性を欠いており、コンセプトが不明瞭という印象が拭えないカメラでしたね。

そういう中途半端にユーザーに媚びることもなく、技術者のやりたい放題をした、それについてくる生産技術があったというこの時代のキヤノンがたまらなく好きなんですよね。

ニコン ニコマートFSの分解清掃

7月1日からTwitterに非Twitter Blueユーザーは600ツイート/日という閲覧制限が加えられたらしく、日曜日ということもあってアクティブユーザーの多い中での変更で大変な騒ぎになっていました。

翌2日午前4時からは1000ツイート/日に緩和されたものの多くのユーザーはソレで足りるはずもなく、イーロン・マスク氏就任以後不安定になる一方のTwitter運営の中、以前から注目視されていたMisskeyやMastdonは大盛況、Misskeyに至っては急遽サーバーを増設することになったそう。

 

さて未来は明るくないTwitterにとどまってられるかといわれれば、そうはいかず、移行先を考えたいにこらですが、ユーザーが散逸しているせいで行くところもなく、とりあえず2日正午ごろに数人で話し合い仲間内でわちゃわちゃできるDiscordサーバーを設置したわけです。

 

幸い支持を受け(71人...!?)、行く宛のない仲間たちはDiscordサーバーに集っていますが、閉鎖的な人間関係では馴れ合いに転化してしまうのは想像に難しくなく、どう新規のオタクを誘い込むシステムを作るか頭の痛い問題です。

 

Twitterの閉鎖的でありつつも開放的な会話の距離感...が文化部の部室に喩えられることがあります。親友と漫画の話で盛り上がったところ、通りがかりの先輩が気がつけば参加してきて...という距離感、あれはDiscordではどうも再現しにくい。

 

決定的にTwitterを代替する次世代SNSが登場すれば、一斉に流入するだろうけどなあ。

InstagramTikTokでは代替にならないんですよね。

部室の緩やかに流れる空気感はなく、昼休みのあと、クラスのお調子者がふざけているのを傍目に休日の話をクラスメイトにする、あの雰囲気に近いのです。似て非なるもの。

 

どうにかならんのかなあ。

 

昨年9月に、ニコン ニコマートFTの分解清掃について記事を書きましたが、ニコマートFTと同じ方から修理依頼です。

前回修理したニコマートFTが非常に品質が高いと評価してくれ、そのあとに希少なニコマートFSも入手したためオーバーホールを頼まれました。大変ありがたいことです。

 

nikora060.hatenablog.com

 

ニコン ニコマートFSは、1965年に登場したニコン ニコマートFTからTTL露出計を取り除き、廉価且つ露出計のない分、堅牢になった機種となります。

 

1960年代中頃は、こうした露出計省略形一眼レフをラインナップすることが一般的で、キヤノンカメラではキヤノンFXに対するキヤノンFP、旭光学ではアサヒペンタックスSPに対するアサヒペンタックスSL、ミノルタカメラではミノルタSRT101に対するミノルタSR-1s...と枚挙に暇がありません。

 

まだ内蔵露出計の測光精度に不信感を持つカメラマンが多かったこと、カメラの堅牢性が損なわれることを嫌ったカメラマンが多かったこと、できるだけ廉価な機種が求められた...など諸説ありますが、値段もそれほど大差ないものですから露出計内蔵機種のほうが販売台数は圧倒的に多く、ニコマートFTの129800台に対して、ニコマートFSは12900台と10分の1ほどしかありませんでした。

 

ニコマートシリーズはその後も販売が続けられますが、ニコマートFTと同時期にFSは生産が終了し、その後はTTL露出計内蔵のFTnのみとなったようです。

その後のニコマートFTn、FT2、FT3は合わせて1560800台も生産されており、出現率で言えば120分の1以下...中古市場では珍品として重宝されているという皮肉が...。

 

ニコマートFTnは、こういう趣味をしていると、ぎょうさん見かけますが、見かける台数に比して同系列であるFSを見かけないため、なおさら外観の奇妙さと珍しさを感じますね。

 

基本構造としては、ニコマートFTと同様のため難儀する部分はありませんでしたが、個人的にビビッときた前板部分に残っている外光測光式だった名残であるダイカスト穴。

ニコマートは1964年の企画当時は外光測光式として企画されており、発売直前になり急遽TTL測光式として規格変更されたという経緯があります。

後年のニコマートFTからはダイカスト自体が作り直されこのダイカスト穴もなくなっておりますが、この機体では健全ですね。

 

そしてスッキリとしたファインダー。

スクリーン、コンデンサーレンズともに超音波洗浄しました。

露出計非搭載のため露出計針はなく、シャッタースピード表示もFTnから追加されたため、なにもありません。

8°の扱いやすいマイクロプリズムスクリーン(ニコンではJ型スクリーンと呼ぶ)ですが、ニコマートFT初期同様にフレネルレンズが1mmあたり12.5本の目の荒いものとなっています。

 

比較用に後期型ニコマートFTのファインダー

ニコマートFTの露出系表示も前期型と後期型ではことなっており、前期型は+ -の表示がなく、ただの枠でしたが、後期型では+ -の表示が追加されニコマートFTnにより近いものとなっていました。

 

やはり、この時代のニコンの内面反射防止塗料はカビやすいらしく、凄まじいことになっていました。ミノルタの内面反射防止塗料のカビとは違い、塗料までは侵食されないため除去できるのが救いではありますが。

 

トップカバーのホコリ。この時代の多くのカメラは速射ケースとともに放置された機体が多いため免れていることが多いものの、この機体はそのまま放置されたようですね。

 

返却不要とのことでしたが、付属してきたNikkor-S Auto 35mm F2.8も清掃します。

個人的にニッコールオートの中でもAuto 35mm F2.8は描写があまり好みではなく、友人に譲渡しようかと思っています。鏡筒やレンズ自体は非常に状態がよく、それなりに仕上がりました。

 

やはり露出系窓が存在しないという...違和感がありますね。

心なしかシリアルナンバーに使用されている文字も違う気がします。

 

 

Nikkor-S Auto 35mm F2.8はm表記でした。当時からの組み合わせかな?

 

ニコマートFT(FS)でも前期型に当たる機体でしたが、各部の仕様や工作も後年のニコマートに比べると年代を感じさせるところや、若干華奢な部分もあり、日本光学のなかでも普及機に試行錯誤していた影を感じさせますね。

 

カウンター固定用のビスが後期型の鉄製ではなく、真鍮製であったり、コパルスクエアSのチャージ用ラックの材質が後期型の鉄製ではなく、真鍮製であったり、その周辺部の設計が異なっていたり...と細かくみていけば色々とあります。

 

機構だけを見るならば安普請なカメラに見られがちですがそこで浮いたコストを部材の向上に充てているようで一般的な普及機では真鍮メッキネジを使用するようなところであっても、アホほどでかい鉄ネジを使用、真鍮マウントではなくステンレスマウントを使用するなど結果として狂ったほど硬いカメラになってしまいました。

 

と書いた覚えがありますが、通常仕様では破損する箇所ではないあたり、こうしたつぶさな改良が後年のニコマートシリーズが硬すぎる普及機になってしまった所以なのかもしれません。

 

 

 

本物(要出典)な英雄329 万年筆

英雄616が偽物だった話

nikora060.hatenablog.com

届いたころから異様に安価なこともあり疑っていたんですよ。

どうやら私が一ヶ月メインに使用していた英雄616は偽物だったようです。

Hero 616 – Mat's Pens

Pen Vault and Ink Cellar.: Real vs fake fountain pen : hero 616

Review Of Fake Hero 616 - Fountain Pen Reviews - The Fountain Pen Network

 

上のマットさんの記事が判別には非常に参考になりました。

二番目の「Pen Vault and Ink Cellar」さんの写真が私の英雄616(偽物)にそっくり。

偽物と断定しました。

 

こうなると、”本物の”英雄を入手したくてたまらない。

というわけで気がつけばもう一本ポチっていました。

 

今度は英雄329という1960年代末に日本で「中共万年筆」として席巻した機種です。

それはともかくとして中共製万年筆といわれる「英雄」その他の万年筆は、実に昭和四十一年秋から翌々年の昭和四十三年夏までの間に、なんと、昭和四十一年度に一一八、〇〇〇ダース、昭和四十二年度には倍増どころか、二二九、〇〇〇ダースを売りまくり、輸入万年筆の三十九%を占める売行きを示したのである。

(梅田晴夫平凡社カラー新書89 万年筆」,平凡社,1978年)

 

今度の”それ”はサックプロテクターに”= 英雄 =”の刻印があります。

しかし、マットさんの記事に「(本物の英雄は)フィラーのサックプロテクター/プレッシャーバーは高度に研磨されています」という記載があるものの、この英雄はどう考えても研磨されているように見えないんですよね。

これも偽物なのだろうか...?疑心暗鬼に陥ります。

 

キャップの仕上げも上等。

今思うと、偽物の英雄616はキャップのクリップも曲がっているし、工作も非常に中途半端、おまけに本体への嵌合もハマりが悪くガバガバだったんですよね。

 

この329はその点本体との隙間もなく、しっかりと嵌まり込みます。

 

 

英雄616と329の違い

329ではパーカーまがいの矢印クリップ(アロークリップ)はなくなり、HEROの刻印が入、60年代の国産万年筆のようにスプリング式のクリップになり、

ペン先に象牙が入りました。

アロークリップは当然ながら世界各国でパーカーの商標登録がされており、その対応としての仕様変更かと思われます。

「紅河(ホンハー)」という北ベトナム製万年筆の日本流入に対して、当然本家のパーカー社は、日本代理店シュリロ社を通じて横浜税関に対して「キャップの矢印のはいったクリップは二十七年に特許庁で商標登録を受けており、これをそっくりマネしてつくった『紅河』は明らかに登録権の侵害」であるとして「輸入差止め」の申請を出したのだが、これに対してわが国の大蔵省関税局は、特許庁の「万年筆クリップの『意匠』は、昭和九年ごろ、日本人が意匠権を登録、しかもすでに権利が切れているので、矢羽根型のクリップを意匠権で差止めることは出来ない。また商標権としては二十七年にパーカー社が、平面図でこの形を登録したが、商標とは本来、商品に付着したものなので、これをクリップという立体物そのものの規制にまで拡張できるかどうかは疑問であるから判断できない」という回答にもとづいて昭和四十三年になって「商標権侵害とするきめ手がない」ので、「紅河」万年筆の日本輸入はみとめざるをえないという結論に到達してしまったのである。

(梅田晴夫平凡社カラー新書89 万年筆」,平凡社,1978年)

英雄のあと、日本にて再び席巻した「紅河(ホンハー)」という北ベトナム製万年筆では商標をめぐって争いがおこったらしい。


カメラではその精密かつ複雑な機構上、模倣が非常に難しく、量産に対して莫大な投資が必要なことから模倣品は一部レンズやバッテリーを除きほぼ出回っていないため、模倣品に対し無頓着でした。

もはや模倣品が市場に出回りすぎて模倣品なのか正規品なのか訳が分からないことになっているとは()海をわたると中華万年筆コレクターが意外と多いことに驚きましたが、なかなか正規品が手に入れられない、このもどかしさが人々を虜にするんでしょうね。

 

腕時計でも、コピー腕時計コレクターなるものが存在するらしく、明らかなコピー品を怪しげなショッピングサイトでポチってはバックレられ、税関に取り上げられ、やっとこさ入手し目方を量ってみたり寸法を測ってみたりと、本物と比べて楽しんでいるらしい...なかには実際に中国深セン時計市場に行くコレクターもいるほど。

 

締めもないので、まぁこんなところです。

モンブラン マイスターシュテュック146

ひさしぶりの万年筆ネタです。

パイロットカスタム743購入から半年、ある本の一文に触発され中字を買ったこともありその太さは気に入っていたものの却って太く扱いにくく辟易としていました。

そのせいか、次第に一番初めに購入した(万年筆沼に落ちた元凶の)パイロットカクノをカートリッジ運用するほどに万年筆に対する興味も薄れ...

 

カートリッジ二箱(24本)使い切ったころに、そろそろ吸入式にもどろうと次に購入する万年筆を物色していたのでした。...散財する口実であるからカクノにコンバーターつければいいだなんて言ってはいけない

 

(やはり、原点に立ち返って、パイロットカスタム74の細字を新品で買ってもいいかなあ、金先物価格も上昇しているしそろそろ値上げされてもおかしくないしなあ)

なんて考えていましたが、カスタム74を新品で購入するならもうちょい追加し742でも良いんじゃないかと迷い始め...結果として中古のモンブランマイスターシュテュック146を購入しました。

 

な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 

頭がどうにかなりそうだった…

 

nikora060.hatenablog.com

 

さすがオリジナルなだけあり、全体のまとまりが美しいですね。

国産の両用式では単に飾りリングとして付いているだけにとどまる金の装飾は、吸入器の装飾となり機能的な意味を持ちます。インキ止め式万年筆では内部の蓋として機能する部分ですね。

単なる飾りリングの国産より長く取られており、そのシャープさが美しく見える理由なのかもしれませんね。

 

キャップをポストした状態。156mmほど。

筆記時にはキャップをポストしたほうがバランスが取れ書きやすいと思います。

 

パイロットカスタム743との比較。

カスタム743はモンブランならば149にあたる機種でしょうから、比較はナンセンスかもしれませんが、146よりひとまわり...いや0.5まわりほど大きいように感じます。

 

アイデンティティなホワイトスター

 

モンブラン山の標高...いや、間違えました、富士山の標高。

プラチナ#3776センチュリーもアイデンティティとして山の標高をニブに刻印していますが、モンブランに対するコンプレックスがにじみ出ているようであまり好きになれないのですよね。書き味は気に入っているのですが、独創性が足りないといいますか。

モンブラン山よりも低い富士山の標高を刻印するあたり、一種謙遜に近いものがあるのか...それとも風刺の意味合いを込めているのか。

 

モンブラン山の標高4810が刻印されています。

イカラーニブを選びました。モンブラン146は50年代バイカラーに始まり、60年代一旦生産が止まったあと、70年代の再生産から単色になり、90年代から再びバイカラーに戻るという系譜を辿っているようですが、単色のものは色気がなくつまらないようにかんじるのですよね。いいや、これまでの国産はすべて単色でしたが。

 

同じ西ドイツ製ライカIIIfと並べました。

50年代のモンブラン146も木になりますが、あまりに高価で...

 

イカも戦後、敗戦処理によりパテントが無効となり国産コピーライカが数多く誕生しましたが(戦前にもパテント無視によるニッポンなどはあるが例外)結局のところ機能的、精度的に優れたカメラは誕生しても形態の美しさ、機能のまとまりではライカを超える国産コピーライカは誕生しなかったように思います(主観)

 

昭和29年のライカM3以後も、国産メーカーは躍起になり機能向上に挑みますが機能的、精度的に優れたカメラは誕生しても形態の美しさではライカを超えられませんでしたね。

モンブラン146とM型ライカ、ともに50年代に誕生し、60年代に一旦落ち目を見る、しかし未だに基本設計はそのまま生産されつづけているという面では非常に共通点がありますね。徐々に機能向上し道具としての利便性向上を目指しつづける国産に対し、初めから機能と形態の兼ね合いで完成形を作るドイツ製、国民性の違いなんでしょうなあ。

 

中古を購入し...と書きましたが、実際届いてみると吸入機構が固着しているジャンク品でした。これから使っていくにあたって必ず遭遇する問題でしょうから返品はせず、分解清掃。掃除したほうが気持ちいですしねえ。

普段、国産万年筆をみているとニブまでカニ目で固定されているモンブランが異様に思えてきますが、思えばなぜ国産ははめ込みなんでしょうね。

 

前使用者はミステリーブラックをメインに使っていたよう。

わたしのモンブランはこの146が初めてではなく、220なんてのも所有していたことがありますがその220もミステリーブラックでしたね。ブルーブラックではないのね。

 

ピストン部分。

 

吸入器はカメラでいう直進ヘリコイドのような構造になっています。

グリスを交換し組み立てます。

インキ窓もしっかり見えるようになりました。やったぜ。

 

インキはせっかくなので純正品、パイロットブルーブラックに色合いの近いロイヤルブルーを購入しました。若干赤みがかっているのがお気に入り。

それにしても、3000円なら、パイロットブルーブラックなら350ml二本買えてしまいますね。比較対象がナンセンスとは思いますが、12倍かぁ...。

切れたらこっそり350ml購入し補充しようかしら。

 

では。

安価にレコードを楽しむ

 

シャレオツブログみたく最初だけNikon D800で()

ご無沙汰してます。

 

半年前に自室に念願の常設フルサイズコンポ(オーディオ)が設置でき、以来日々使っています。

CDプレーヤーやUSB DACは設置せずレコードプレーヤー、FMチューナー、アンプという70年代にありがちな3セットになっていますが、いかんせんレコードの入手に困る。

 

76年パイオニアで揃えました。素晴らしいですね、惚れちゃいます。

 

さて、レコードの入手。

近頃は若者を中心にレコード復権などと叫ばれており、街中のレコードショップも活気づいているようですが、ふらっと眺めた限りそれなりに高価。

それはそうです、維持費人件費等かかっていますし、完全な嗜好品となった現在となってはプラスアルファな価値も加わっているのは否めませんね。むしろ適正価格な気はします。

 

しかし、ある程度の枚数をこなさなければ楽しくない、んでもそれほど金銭的に余裕がある訳ではない、それなりに楽しめる方法を考えるという趣旨です。

 

やはり出身元はハードオフ。あの青箱に大量に入っているジャンクレコードです。

なんといっても一枚100円です。タムロンアダプトールレンズよりは高価ですが、缶コーヒーと同価格というのはなかなか。

 

気に入ったアルバムは一旦カゴにセーブし、一枚一枚カビやチリは後々取り除けるためキズをチェックしたのち購入。

前所有者が大量に売りに来るというケースが多いようで、一旦好みなアルバムが見つかるとコロニーが見つかるように同じアーティストやジャンルが見つかりたちまちカゴは溢れます。

 

たいてい外袋はやれており、そのおかげでみすぼらしく見えますが、交換してあげるとずいぶんと上等になります。

 

内袋に至っても、多くは購入当時のものでシワが多く、チリやカビの温床となっているため一律に処分してしまいます。一枚およそ10円ほど。

 

 

さて、レコードの清掃。

エタノールに対するポリ塩化ビニルの耐薬品性は、軟質は完全にアウト、硬質であっても若干の影響があるようでなるべくエタノールは使わないようにします。

 

わたしは花王マイペットを水と1:20ほどに希釈したものを使用しています。

界面活性剤の作用で静電気が発生しづらくなり実用的です。

 

軽くチリを払い、その状態で取り敢えず再生しちゃいます。

あんまし高価な針を使っている方はやめたほうがいいかもね。

 

チリを払うためのハケは100円ショップにて調達。

毛先がやわらかいハケ放射線状に払うために使用します。

毛先がかためのハケは同心円状に払うために使用します。どちらも美容コーナー(ファンデーション用)にて見つけました。

 

一旦溝を針が走るため、綺麗にみえたレコードも溝に入り込んでいたチリが掻き出されチリまみれになりましたね。これをやわらかいハケにて放射線状に払い、

 

毛先のかためのハケで同心円状に溝から再び掻き出します。

 

これで極小のチリもおおよそ取り除けました。

結局、50マイクロメートルの幅にて溝が構成されているレコードでは完全にチリを除くことはむずかしくある程度で妥協した方がいいかんじです。わたしは諦めました()

ぶっちゃけ、ヘッドフォンではなくスピーカーから聴くときにはそれほど気になりませんし。

 

シングルならこうして超音波洗浄機で無理やり洗うことができるんですけどね。

 

状態のわるいレコードを清掃した際には、いくらダイヤモンドとはいえ紙しか切断していないハサミが摩耗する原理と同じく分子が欠け摩耗が発生するそうですからあまし高価な針は使わないほうがいいかもしれませんね。

それこそ、あまりに枚数をこなす人はジャンクでフルオートプレーヤーをそれこそジャンクで購入してきて清掃用に使用するなんかでもよさそうですが。

そうそう、CD普及以後のあの廉価なフルオートプレーヤーはほぼ某社のOEMオーディオテクニカ製ATL-3600Lが使用できたりします。一個1800円ほどと非常にリーズナブルで清掃用というのも可哀想ですが、消耗品と割り切ればよさげかも。

 

こんなところです。では~。

日付スタンプの効用

お久しぶりです。毎回書いてる気がします。

最近、遊んで入るものの特に大したことはしておらず、ブログネタに困っていたところでしたが、先日物品を人に譲った際剥がし忘れた日付スタンプシールについて尋ねられたこともあり日付スタンプの効用について書こうかと。

 

 

先々月の話、パナソニック製電源タップを購入した際、製造年月日がパッケージに押されており「さすが大企業の品質管理は違うなあ」と感心していたわけですが、ちょうど自称記録魔である私がその記録の検索性に嫌気が差してきたこともあり、購入したすべて物品の購入日を本体に直接印字すれば、記録の精密性向上に役立つのでは?と思ったのです。

 

早速、100円ショップにて日付スタンプを調達し(ちなみに写真は二代目)活用を始めました。

以前からめぼしいものは手書きにて購入日をシールで貼っていたこと、記録魔であることも相まって当日中にはほぼすべての物品に印字できたわけですが、始めてから僅かな日数しか経っていたい割には意外な効用が見え始めたのです。

 

その効用とは梅棹忠夫「知的生産の技術」(岩波新書)、川喜田二郎「発想法」(中公新書)に触発され京大カードを信奉している私ですが、物品が部屋に散らばったカードとして機能することでした。

(連続的な記録であるノートからページを切り離し、それらを断片的な記録として扱うことにより年月や既成の分類という壁を突き破り検索性の向上、それらの抽象的な理解によりジャンルを超えた発想の繋がりの発見するなど効果がある、いずれブログで紹介したいね)

 

連続的な記録である日記やメモ帳と相互関係に置くことにより一種物がカードとして役割を果たすのです。

具体的な使用例で言えば、

部屋の中で効果を期待し購入したダイエットグッズを見つけ、日付を確認したところ22年6月22日という記載があり日記を検索、12345円でAmazonにて購入したようだが3日坊主であれから一度も使用していないことが発覚、破棄or売却

というシステム的な物品管理ができます。

 

記憶というのは非常に曖昧で、鮮明だったはずの記憶も日々薄れ、写真で言うならばコントラスト比が高くなっていくように当時の感情ばかりが優先され「高価だったしまた使うだろうなあ~」と理由づけし放置し結果的にゴミ屋敷になるという流れが発生しますね。

 

なんたって...3年前までゴミ屋敷だったんで......

 

管理できる程度の物に絞ればゴミ屋敷化を防げるなんて言いますが、趣味の拡充に伴って使用する道具の増加や新たな使用用途の開拓として購入した物など既成の管理場所では近い未来に破綻する未来が見えています。

 

思い出してAmazonの購入履歴を漁ればいいって...?

ゴミ屋敷になるようなものぐさな人間がやりますかね。

 

日記を片っ端から漁っていけばいいって...?

思い出に浸って終わりじゃないですか。

 

手書きで書けばいい...?

いちいち物を購入したあと、シールを取り出して時計あるいはカレンダーを見てペンを取り出し日付を書き込み貼り付けるなんて面倒なことやりますかね。

 

やはり毎日起床時に日付をセットさえすれば連続的に考えずぽんぽん押せる日付スタンプに勝るものはないんですね。

 

 

そして、それが一種物がカードとして役割を果たすのですと書きましたが、

普段使用する中で効率向上に絶大に寄与している電子メモパッドを見つけ、日付を確認したところ22年7月31日という記載があり日記ならびにカードを検索、その効用が書かれた京大カードを発見、それらをまとめてブログに書く。

そして、フィードバックとして効用を再確認、増備する。

 

と言った使い方が出来ます。今回がまさにそうです。

 

 

そして初めは物の購入年月日ばかり押していたものの、次第に活用範囲は広がっていき

本の閲覧履歴や

記録した年月日

 

記録に追記する際の記録日

 

カードへの年月日の記録(このカードだと時間もあるからイマイチだけど)

などの活用法が期待できますね。このスタンプは7mm幅のためA掛にちょうど良いですね。

他に記述するといった方法もありますが、経験則で云えば続きませんし参照もし辛いため直接印字したほうが吉です。

 

 

一般の水性スタンプ台ではプラスチック、金属といった紙以外の対象物には印字できませんが

シャチハタのTATという油性スタンプ台ならば特殊インクのため印字することが可能です。

これを購入してからというもののより活用機会が増えましたね。

これで消耗品にも押せるようになりました。

 

そう、日付スタンプの効用としてもう一つ、消耗品のおおよその消耗時期の予測というものがあります。

ちょうど三日前、愛用のVロートが切れ、薬局へ買いに走りましたが購入年月日を見れば3月7日、今日は9月24日でしたので半年と二週間持ったことになります。

 

ならば、半年ほどで新たに購入すればいいわけですね。

Vロートには標準容量の13mlと、大容量の20mlのものがあり毎回悩むところです。

値段は500円(ちなみに前回が508円、今回が478円...これが検索性の向上)と700円。容量を考えれば1.5倍ですから大容量のほうが僅かに安いことになりますね。

しかし、標準容量のものを購入したのは消費頻度としてはそれほど早くなく、大容量を購入する必要性を感じなかったためです。これが600円なら大容量を選びますけどね。

 

半年で消費する目薬では効果は感じにくいものの、短スパンで交換する乾電池や交換時期のわかりにくい掃除機の紙パックでは経験則として組み込むことによりおおよその消耗時期、交換頻度を予測でき大変有用です。

実際問題、交換頻度が異様に低いことがわかった掃除機の紙パックは、期間対コストが低いため互換品紙パックから純正紙パックを購入するようになりました。

純正の方が倍以上高価なものの、臭いはよほど少なくQOLの向上に繋がりました。

 

消耗品など、記憶の片隅にもなく、よほど短スパンで記憶に残らない限り交換時期は全く予測できず買い溜めしやすい傾向にありましたが改善されたのは立派な効用でしょう。

 

では~。

ニコレックス35II分解修理の話

今月の初め9月6日のこと、松屋銀座で開催された第47回世界の中古カメラ市の帰りがけ、Twitter、ブログともに親交のあるわかばだい君、けいふさんらとともにレモン社銀座教会店に寄ったところ、ニコレックス35IIが比較的廉価で置いてありわかばだい君が買っていったのでした。

 

思えばニコレックスは初代を二台ほど購入し蘇生を試みたもののどちらも根本的に弱いカメラということもあり蘇生できず放置、以来疎遠となっていました。

ちょうどともにレモン社に立ち寄ったけいふさんがニコレックス35IIを余らせているとのことで私のカメラと物々交換という形で譲っていただきました。

 

ニコレックス35もII型になれば幾分 まし になるんじゃないかという期待を込めて分解修理。

ニコレックス35初代と並べてみました。

根本的な設計思想、大柄(無論野暮ったい)堅牢そうなボディスタイルは変わらず各部改良が行われています。

大きくいえばシャッターユニットの変更、スタイルの変更、スプール・裏蓋開閉機構の改良等が行われています。

ボディは八角形の伝統的なものから、角を落とした四角へと変更。

この変更はすでにニコレックス初代用に使われていたダイカスト型を削り込み型修正という形で行ったというから驚きますね。

結果としてニコレックス35初代の22520台から二倍とまでは及ばないものの、42955台が生産されたと言います。しかし売れ行きは良くなく一時は12000台もの在庫を抱える有様だったらしい。(*1)

 

軍艦部カバーを外して思うのは設計が極めてニコマートに似ているということ。

軍艦部カバーにシンクロ接点を直にはんだ付けするあたりや、露出計窓周囲にモルトを配置するあたり、後述する巻き止め機構に関してもニコマートに酷似しており設計思想としてかなり近いものがあるんじゃないかなあ。

 

レンズボード裏側。

初代の直にレンズシャッターからのチャージギアが出ている機構からレバー、カムを介してチャージする機構に改められました。

プロンターを参考にしたシチズンMXVからシンクロコンパーを参考にしたセイコーシャSLVに変更されたという点が大きいんでしょうね。

 

最深部のセイコーシャSLV、黎明期から最末期までレンズシャッター一眼レフ用シャッターを供給しておりトプコンコーワ等でも多用されていました。

ここまでの分解過程を書いていませんが、かなりまとまりのない設計をしておりかなり苛つきながら分解しました。ミノルタハイマチック7なども入り組んだ設計をしていますが、もうちょいまとまりがあったはず。

絞り値、シャッタースピードの可変抵抗を介した露出計連動のための機構は直にブラシを取り付けるよりユニット化したほうが良いと思うし前の取って付けたような飾りリングは要らんと思う。

あと、シャッターをレンズボードに接続する中間のリングにシンクロの中継接点がありますがブラシへのケーブルははんだ付けだったりとちぐはぐです。

 

省略できそうな部品が多く、これ結構製造コストかさんだんじゃないかなあ。

セルフタイマーとスローガバナー

ふつーのセイコーシャSLVです。実はセイコーシャSLVはあまりすきでない。

セイコーシャラピッドは好みなんですが。。。ね。

 

セイコーシャSLVがレンズシャッター一眼レフに多く用いられた理由である羽の開閉機構。まだクイックリターンには対応しておらずチャージ時のみ開閉できる仕様です。

 

ちなみに大判カメラに使用するセイコーシャSLV0番ですが、こちらもチャージ時のみ開閉できる仕様です。

 

ヘリコイド部分

モリブデングリスが用いられていたのか粉、ゴミが多くひどい状態。

ニコンのグリスは劣化ではスッカスカに抜けるだけですので固着することはなく、別のグリスが用いられているようです。

 

洗浄後

 

このカメラの最大特徴と言っても過言ではないポロミラーシステムです。

フォーカシングスクリーンの上にコンデンサーレンズが配置されるのは一般的な一眼レフと同様、3枚のミラーにてペンタプリズムの代用をしています。

劣化しても表面鏡で代用できるのが良いね!!!()

 

ベース部はダイカストにて作られており、スプリングにてミラーを押さえつける仕様です。無論接着剤でも固定されていますが。

 

フォーカシングスクリーンはスプリット式、プリズム角度は6度。

50mm f/2.5レンズ、コンバーションにて35mm F4 90mm F4に変更可能であるがポロミラー式のためファインダー倍率は0.6倍と低く若干不安があるような。

あんなにちっさいファインダーの割に出てくるのは一般的な一眼レフと変わらないフォーカシングスクリーンというのが当たり前っちゃ当たり前なんですけど違和感がありますね。

 

この上は元からビニールテープにて防塵と遮光がされており、それが如何にも雑に作られたカメラのように思え、ニコレックスが不当に低い評価をされる一因なんだろうなあ...それ以外にもポンコツな点はたくさんありますが。

 

レンズ、Nikkor-Q 5cm f/2.5が付いています。

ただのテッサータイプです。この時代になると2.5も可能になったんですねえ。

そういえば同じ昭和38年頃ニコンではf/2の変形テッサー型レンズの構想があったらしく、意外に諸収差の補正は良好で驚いた記憶があります。特許広報を見る限り第三レンズと第四レンズを分離し僅かな空気レンズを入れるという手法取っているために製造面でボツになったんだろうと推察。

 

同時期、盛んにレンズ枚数を減らす設計手法が研究されていたようであの時代の特許公報は見ごたえがありますね。

キヤノンのキヤノネットに採用されたCANON SE 45mm f/1.9では第六面の曲率を弱めコマ収差を改善、それによって発生する球面、非点収差を第二群にて解消するというセレナー50mm f/1.8と同様の手法を取っているようでまさにキヤノンらしいなあと思った次第。

 

レンズシャッターカメラだと00番シャッターという制約も重なってくるわけで、キヤノネットQL17に採用されたSE 45mm f1.7は6枚構成という一見無理のない設計であるもののダブルガウスタイプでいう3群目凹凸という順番を逆にし奇妙な構成ながら解決、しかしながらダブルガウスタイプの特徴である対称性が崩れ歪曲収差が大きくなってしまったよう。

性能で言えば1.9より1.7の方がよほど良さそうなものですが、若干無理していることも多くなんとも言えないんですよね。歪曲収差に関しては絞り込んでも解消しないわけで。(個人的にはキヤノネットQL19より17の方がデザインは好きなんだけどね。

 

この時代のテッサータイプレンズは第三群に使用されているフリントガラスが新型硝材が使用され始めた頃から曇りやすいらしく多くの大衆機で曇りが発生してしまっています。Nikkor-Q 5cm f/2.5にはそういったことはないようで良かったというかなんというか。

本来、ニコンF発売時、標準レンズとしてセットされる予定だったものの、新時代の一眼レフにF2.5は良くないとかそんな理由うろ覚えでボツになったレンズらしくそのレンズが楽しめるのもニコレックスならではだなあと。

Ai-P 45mm f/2.8なんていうパンケーキレンズもテッサータイプでしたねそういえば。

 

手元のアサヒカメラ1963年4月号に掲載されたニューフェイス診断室70回ニコレックスズーム35の診断記事を読んでいると、「お世辞にはスマートとはいえない(*2)」という文言はあるものの概ね高評価でなんとも不思議な気分。

所感では、体裁から構造までもうちょい検討しても良かったんじゃないかという気はしないでもないような。「これも初めての試みとして最終組み立てまで外注先に任せたことも、トラブルの原因としてあるようだ。(*2)」「このシャッターに問題が会った上に、技術力の未熟な下請け工場に作らせていたため、故障が続出してしまった。(*3)」などと外注先やシャッタートラブルを原因と断定するような記述が多いが根本的に企画として甘かったんじゃないかという気はしないでもないような。

 

ニコレックス8と同様、黎明期における2万円台の一般向け普及一眼レフというコンセプト自体は良いものの35に関しては甘かったんだろうなあ。

その点、同時期に同じく高級メーカーが中級機を発売し成功した例としてキヤノンは設計面のみならず製造面、販売面でも手抜かりはなく綿密な計画構想があったからこそキヤノネットの大ヒットに繋がったんだろうなあとは思う。キヤノン唯一の社史「キヤノン史 技術と製品の50年」第二章第二節にキヤノネットの解説があるがよっぽど考え方ともに進んでいると思ってしまう。

 

 

(*1)荒川龍彦(1976)「明るい暗箱」朝日ソノラマ社 pp.292-293

(*2)第1回「ニコレックス35」と「ニコレックス35II(35/2)」

https://www.nikon.co.jp/main/jpn/profile/about/history/itoko/itoko01j.htm

(*3)荒川龍彦(1976)「明るい暗箱」朝日ソノラマ社 pp.292